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≪詳細版≫No.2:死亡を増やすドナネマブ(アルツハイマー病用剤)-速報

薬のチェック編集委員会

アルツハイマー病用剤「ドナネマブ」:脳出血死が多発

無効で害のみ、たとえ安価でも使ってはいけない

薬のチェック編集委員 浜 六郎

 アルツハイマー病の進行を遅らせるとする抗体製剤ドナネマブ(ケサンラ🄬)が2024年9月24日に承認されました。レカネマブ(レケンビ🄬)に次いで2剤目です。これらの薬剤への医学会や当事者・家族、あるいはメディアの関心は高く、効果に疑問が呈されながら、たいへん高価ですが、使用されています。筆者がドナネマブに関して論じた記事が共同通信社から10月30日に配信され、11月5日付の愛媛新聞、11月10日に千葉日報(いずれも文末)などに掲載されました。承認後の期間も限られ、情報も限られていましたが、基本的な評価はできました。

 その後も追加情報で検討を重ねて、害はさらに大きいものであることが判明してきました。詳細な評価は、薬のチェック117号(2025年1月発行予定)で公表する予定です。しかし、本年中にも薬価が決まり、保険診療が開始されると思われるため、ここで、その概略を速報します。専門用語も出てきますが、一般の方も読んでいただければと思います。

 

まとめ

  • ドナネマブの臨床試験データを見ると、先に承認されたレカネマブよりも、さらに害の大きさが目立ちます。最大の害は脳内出血など出血性脳卒中と、それによる死亡です。
  • 臨床第3相試験で、ドナネマブ群(853人)では、脳内出血やくも膜下出血、硬膜下血種などを14人が起こし(約60人に1人)、うち4人(約200人に1人)が死亡しました。ほぼ同数(874人)のプラセボ群にはこれらの出血性脳卒中も、それによる死亡も起こっていません。
  • アミロイドβが認知症の原因で、ドナネマブは脳に溜まったそのアミロイドβを除去するため効果があるとされています。しかし適度の運動などによる軽いストレスは活性酸素を消去する酵素を誘導してストレスに強い体を作ると同時に、適度のアミロイドβを作って、壊された神経細胞や血管の平滑筋を補うべく働きます。
  • 一方、強すぎるストレスが持続すると神経細胞や血管壁の平滑筋細胞を壊死・脱落させ、大量にできたアミロイドβが、脱落した神経細胞や血管壁の筋細胞(平滑筋)の代わりに溜まり、欠損部を補修します。アミロイドβは、神経や血管の筋細胞を壊す「原因」ではなく、補修成分として使われた「結果」です。いわば「修理部品」を取り除いたために、血管が破れて脳出血を起こし、死亡につながったと考えられます。
  • ドナネマブによって血管に小さい穴が開くと、脳の浮腫や微小出血が起こります。これらは、アミロイドβがたくさん溜まっている認知症の進んだ人ほど多く起こります。そのためドナネマブ群では認知症の進んだ人がより多く、認知機能の最終評価対象から外されます。こうした操作でドナネマブに有利な結果が出たのであり、進行を29%遅らせたという結果は全く信頼できません。
  • 日米ではレカネマブ、ドナネマブとも承認されましたが、EUやオーストラリアではレカネマブは「効果がリスクに見合わない」として承認されず、ドナネマブも未承認です。英国では2剤とも承認されたものの公的医療制度では使えません

                    結論:ドナネマブは使用すべきではない

 キーワード:ドナネマブ、レカネマブ、アルツハイマー病、アミロイドβ、酸化ストレス、脳内出血、くも膜下出血、出血性脳卒中、脳アミロイド血管症、害反応死亡

 

はじめに

 アミロイドβを除去することでアルツハイマー病の進行を遅らせることをうたい文句とした2剤目の抗体製剤「ドナネマブ」(ケサンラ🄬)の製造販売が厚生労働省により2024年9月24日に承認されました[1]。

 日本や米国では、レカネマブ(レケンビ🄬)も承認されています[2,3]が、欧州連合(EU)[4]やオーストラリア[5]では、レカネマブは「効果がリスクに見合わない」として承認されていません。英国では2剤とも承認されましたが、同じ理由で公的医療制度では使われない見込みです[6]。

 なぜ、このように評価が分かれているのでしょうか。薬のチェックでは、111号の「害反応」でレカネマブを取り上げた際に、アルツハイマー病の原因に関するアミロイド仮説そのものについて検討し、アミロイドβはアルツハイマー病の原因ではなく、真の原因としての過剰な酸化ストレスの結果生じてきたものである、との結論に至りました[7-9]。この観点から、ドナネマブについても詳細に分析しました。詳細な記事は薬のチェック117号(2025年1月発行予定)で公表しますが、今年中にも薬価が決定される可能性があるため、「番外編」として、その概略を速報します。

 

ドナネマブは固体のアミロイドβを取り除く

 アミロイドβは、1個の分子(単体)から、分子どうしが結合して、だんだんと大きい分子になります(2つ結合したものを2量体、結合した分子数が少ないものを「オリゴマー」という)。高分子の可溶性凝集体(プロトフィブリル)になると毒性が強いといわれ、最終的に不溶性の(固体化した)アミロイドプラークとなります。

 レカネマブは、溶解した高分子状態(プロトフィブリル)のアミロイドβと、固体化したアミロイドβの両方に結合して除去します。一方、ドナネマブは固体化したアミロイドβのみに存在する物質(N3pG Aβという)に結合して、固体化したアミロイドβだけを除去するとされています。

 

最大の害は出血性脳卒中とそれによる死亡

 ドナネマブの承認の根拠となった試験のうち公表されているのは、第2相の小規模のRCTだけです[10]。第3相のランダム化比較試験(RCT)は論文として公表されていません。日本の審査報告書[11]や申請資料概要[12]のデータ、米国食品医薬品庁(FDA)が公表している審査関連の資料[13,14]を点検しました。

 結論から先にいうと、ドナネマブは、昨年承認されたレカネマブ[7-9] 以上に出血性脳卒中が目立ち、プラセボに比較して、出血性脳卒中と、それによる死亡が統計学的に有意に多く認められました。

 レカネマブでは、1cm以上の脳内出血を生じた人は、プラセボ群には1人だけでしたが、レカネマブ群には5人いました[7,15]。予定した試験期間内には出血性脳卒中による死亡はなかったものの、試験終了後延長期に入って、レカネマブを初めて使い始めた人の中から3人が死亡しました。しかし、統計学的な検定はできませんでした[8]。

 一方、ドナネマブの第3相RCTの主要部分(二重遮蔽の期間)では、ドナネマブ群853人中、脳出血に関連して4人が死亡。内訳は、脳内出血が2人、くも膜下出血が2人でした。また、死亡に至らなかった脳内出血やくも膜下出血、硬膜下血種など出血性脳卒中が10人いました。プラセボ群の874人中には、脳出血など出血性脳卒中やそのための死亡はありませんでした[11-14]。その結果、ドナネマブ群では約60人に1人が出血性脳卒中を起こし、約200人に1人が出血性脳卒中で死亡したことになります。ドナネマブによる出血性脳卒中の危険度(オッズ比)は30.21(95%信頼区間:1.80, 507.21)、統計学的にP値=0.0004で有意でした。

 出血性脳卒中による死亡の危険度(Petoオッズ比)は延長期に死亡した1人を含めて総合解析すると、7.56(1.31,43.71)、P=0.0238で統計学的に有意でした。

 

脳卒中に至らない脳浮腫や脳内出血も多発

 磁気共鳴装置(MRI)でとらえた脳浮腫をARIA-E(Eはedema=浮腫を意味する)、MRIでとらえた脳出血の画像をARIA-H(Hはhemorrhage=出血を意味する)と呼んでいます。要するに、血管の老化とともに溜まっているアミロイドβをドナネマブで取り除いたために、血液が染み出して脳浮腫を起こしたり、出血したりする現象をMRIでとらえた呼び方です[9]。

 これが、ドナネマブ群では3人に1人以上に出現し、この数字は、プラセボ群の3~15倍になりました。ちなみに、レカネマブ群では6人に1人程度で、プラセボ群の2~8.5倍でしたので、いかにドナネマブで起こりやすいかが分かります。

 

認知症が進んだ人が評価から除外された

 脳浮腫や脳内出血が起こった人は、認知症が進んだ、アミロイドβが脳にたくさん溜まっていた人です。認知症が進んだそうした多くの人のデータが外されたため、ドナネマブの試験での認知機能評価の結果は、レカネマブ以上に歪められており、ドナネマブが1年半の間に認知症の進行を29%遅らせたなどという結果は全く信頼できません。

 

出血による脳卒中死はアミロイドを取り除いた結果

 レカネマブとドナネマブは「アミロイドβ」という脳内のタンパク質が神経細胞を壊し、アルツハイマー病になるとする「アミロイド仮説」を基に開発されました。

 先述したように、レカネマブは、アミロイドβのうち液状のものと固体と両方に結合して取り除きますが、ドナネマブは、脱落した血管の筋肉層の代用品として血管を補修している固体化したアミロイドβだけを取り除きます。脳内出血を起こしやすいのは当然と考えられます。

 また、くも膜下出血を起こす原因になる血管は、脳内出血の原因となる脳内の細い血管よりもかなり太いのですが、ドナネマブではそうした太い血管も破裂させて出血させ、死亡に至っています。ドナネマブがいかに出血を起こしやすい物質であるかが分かります。

 

アミロイドは原因ではなく結果

 本誌で過去に3度[7-9]、特に111号[9]で詳しく述べましたが、そもそも、アルツハイマー病の原因としての「アミロイド仮説」自体の根拠が非常に疑わしいものです。本誌111号[9]の内容の要点を説明します。

 ヒトは高齢になっても、脳の神経細胞を日々新たに作っています。適度の運動と十分な休息・睡眠剤に頼らない十分な睡眠時間の確保で、日中に受けた軽度の活性酸素によって、神経細胞や、血管平滑筋細胞が傷害されると、適度にアミロイドβが作られて、神経細胞や、血管平滑筋細胞になる元の細胞(前駆細胞)を刺激して成熟した神経細胞や、血管平滑筋細胞を作ります。

 ところが、日ごろ運動せず、睡眠を削って活動しつづけたり、うつうつとして強いストレス状態が続いたりすると、活性酸素を消去する酵素が体内で作られなくなり、虚血(血液が組織に届かなくなる)と活性酸素のために、神経細胞や血管平滑筋が大きく壊され、大量のアミロイドβが作られます。

 適度のアミロイドβは、神経細胞や筋肉細胞の前駆細胞を刺激して新しい神経細胞や筋肉細胞を作りましたが、大量のアミロイドβは互いに結合(重合)して神経細胞や血管平滑筋の前駆細胞が成熟細胞になるのを阻害するとともに、最終的には固体化して、神経細胞や血管平滑筋が欠けた部分(脱落部)に沈着します。血管平滑筋が脱落したままでは破れるので、破れないように代用品として補修していると考えられます。

 つまり、アミロイドβは、アルツハイマー病の原因ではなく、真のアルツハイマー病の原因によってできた、結果に過ぎません。

 

補修成分を取り除くとどうなる?

 脳の血管にアミロイドβが沈着する病気を「脳アミロイド血管症(CAA)」と言います。アルツハイマー病の人にこのCAAが多くみられるのは、アルツハイマー病も、CAAも原因が同じだからです。

 薬剤でアミロイドβを取り除くことは、血管壁から脱落してしまった平滑筋の代用として沈着した補修成分、いわば「修理部品」を取り除くことに等しいといえます。血管に穴が開くと、脳浮腫や脳出血が起こり、大出血で脳卒中を起こし、最悪死亡します。死亡を免れたとしても、麻痺や意識障害、脳萎縮が起こります。

 

レカネマブより強力?なため高価

 ドナネマブの日本での薬価は未定ですが、米国では1人当たり年間3.2万ドル(1ドル153円で換算して約490万円)と、レカネマブ(年間2.65万ドル)よりも高価に設定されています。

 その理由として、アミロイドβの除去効果が著しいので早期にアミロイドβ除去の目標に達するからだ、との趣旨の説明がされています[16]。

 しかし、「早期に目標に達する」と見えるのは、「修理部品」を早く除去した分、レカネマブよりも脳浮腫や脳出血が起こりやすくなったために、つまり害が多く出たため、「早期に中止せざるを得なかった」人が多かったとみるべきです。害が大きいことを、効果が大きいと、すり替えて、高価格設定の理由にしています。

 

審査関係資料は害が目立たないよう工夫?

 なお、国の審査報告書では、くも膜下出血あるいは脳出血で死亡した例を、死因を明示せず単に「死亡」としたり、脳出血例と、くも膜下出血や硬膜下血腫を別に集計したりしています。また、メーカーの作成した申請資料概要では、第2相と第3相試験を併合したデータだけで示したり、「因果関係が否定できない死亡例はARIA関連事象による死亡を3人だけとして、くも膜下出血による死亡を除外したりしていますので、害の状況の把握に困難を極めました。

 このようなメーカーや、国のごまかしに騙されないように、データをよく見てほしいと思います。脳出血による脳卒中が多発し、そのための死亡も増えるような害の大きい物質に、高い医療費を払う価値は全くありません。

 

EU・豪で承認されず、英では公費対象外

 冒頭でも述べましたが、欧州連合(EU)やオーストラリアではレカネマブは「効果がリスクに見合わない」として承認されていません。ドナネマブも未承認です。また、英国ではどちらも承認されましたが、同じ理由で公的医療制度では使えないとの勧告がされています。

 

結論:使用してはいけない

 アルツハイマー病の進行を遅らせるとする抗体製剤ドナネマブは、レカネマブよりもさらに脳出血を起こしやすく、約60人に1人が脳出血などで脳卒中を起こし、約200人に1人が脳出血などで死亡しました。無効で害だけがあるドナネマブ使用してはいけません。

 

参考文献

1)読売新聞、アルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」の製造販売を承認、2024/09/24
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20240924-OYT1T50149/

2)日本経済新聞、イーライリリーの認知症薬、日本で承認 2つ目の新薬、2024年9月24日

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC247010U4A920C2000000/

3)ロイター、米FDA、イーライリリーのアルツハイマー薬を承認 エーザイに次ぎ2例目

 https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/XAHD7WYSDRJRJI6RSKV6JHVTBI-2024-07-02/ 

4) 日本経済新聞、エーザイの認知症薬「レカネマブ」、欧州が否定的見解 2024年7月26日

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC26CEW0W4A720C2000000/ 

5) 日本経済新聞、エーザイ認知症薬レカネマブ、オーストラリアが推奨せず、2024年10月17日

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC170TG0X11C24A0000000/ 

6) NICE (National Institute for Health and Care Excellence) New Alzheimer’s treatment donanemab does not currently demonstrate value for the NHS says NICE

https://www.nice.org.uk/news/articles/new-alzheimer-s-treatment-donanemab-does-not-currently-demonstrate-value-for-the-nhs-says-nice

7) 薬のチェック編集委員会、レカネマブ:アルツハイマー病用剤、薬のチェック2023:23: (107):56-60

8) 薬のチェック編集委員会、レカネマブが多発性脳出血の原因に、薬のチェック2023:23: (110):140

9) 薬のチェック編集委員会、アルツハイマー型認知症用剤レカネマブ-脳出血・脳萎縮が起こるのは必然薬のチェック2024:24(111):18-20

10) Mintun MA, Lo AC, Duggan Evans C et al. Donanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2021;384(18):1691-1704. doi: 10.1056/NEJMoa2100708. Epub 2021 Mar 13. PMID: 33720637

11) 医薬品医療機器総合機構(PMDA), ドナネマブ審査報告書

https://www.pmda.go.jp/drugs/2024/P20240920001/530471000_30600AMX00243000_A100_1.pdf

12) ドナネマブ申請資料概要:https://www.pmda.go.jp/drugs/2024/P20240920001/index.html 

13) FDA Briefing Document: donanemab: https://www.fda.gov/media/179166/download

14) Eli Lilly and Company, Donanemab for the treatment of patients with early symptomatic Alzheimer’s disease: Sponsor briefing document https://www.fda.gov/media/179166/download 

15) van Dyck CH, Swanson CJ, Aisen P, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):9-21. doi: 10.1056/NEJMoa2212948. Epub 2022 Nov 29. PMID: 6449413

16)米リリーのアルツハイマー病薬ドナネマブ、FDAが承認 https://answers.ten-navi.com/pharmanews/28255/

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